介護業界は現在、慢性的な介護人材不足に悩まされています。団塊世代が全員75歳以上となる2025年には、人材不足の問題はより深刻になっていることが予想されます。この問題を解決するために、私たちはどのような対策をしていけばよいのでしょうか。
この記事では、介護人材不足の原因とその対策を定量的データから紐解いていきます。
目次
介護業界の⼈材不⾜の実態を表すデータ
介護業界の人材不足の実態を知るために参考となるのが、介護労働安定センターが発表している「介護労働実態調査」で、
これは、介護労働安定センターが実施している「事業所における介護労働実態調査」および「介護労働者の就業実態と就業意識調査」の結果をまとめたものです。
令和3年度に実施された「事業所における介護労働実態調査 」によると、従業員の不足感は全体で63.0%となっています。
この不足感は、過去5年間60%台で推移しており、介護業界の人材不足が長く続いていることが見て取れます。
職種別で見てみると、訪問介護は80.6%と最も高く、次いで介護職員が64.4%となっています。
また、介護保険サービス種別で見てみると、訪問介護員は訪問系・居宅介護支援でともに81.6%、介護職員は施設系(入所型)で75.6%と、職種によって不足感に違いがあります。
では、介護労働者側の視点ではどうでしょうか。「介護労働者の就業実態と就業意識調査 」によると、労働条件等の悩み、不安、不満等の項目では、「人手が足りない」が52.3%と最も多くなっています。
これらの結果から、職種によって違いはあるものの、事業所・労働者ともに人手不足に悩んでいることがわかります。
⼈⼿不⾜の原因
介護業界の人手不足には、さまざまな原因が考えられます。その中でも、大きな原因と考えられるのが次の3つです。
介護業界の人手不足には、さまざまな原因が考えられます。その中でも、大きな原因と考えられるのが次の3つです。
新規採⽤が難しい
介護人材不足の原因としてまず挙げられるのが、「新規採用が難しい」ということです。
厚生労働省「一般職業紹介状況(令和4年度9月分)」によると、介護サービス業の有効求人倍率は3.78と高くなっています。
しかし、紹介件数は前年同月比で-10.2、就職件数は-6.4と減少しており、新規志望者数は少ないことがうかがえます。
次に、令和3年度「事業所における介護労働実態調査」を見てみると、新卒者の採用は4.7%と少ない一方、中途採用は78.5%と圧倒的に多いことが示されており、この点から、介護業界で働く人の多くが中途採用されている現状が見て取れます。
さらに同調査によれば、介護サービス事業の運営上の問題点として、実に49.8%の事業所が「良質な人材の確保が難しい」ことを挙げており、人材確保の難しさが浮き彫りとなっており、上記の結果から、介護業界では新規採用が大きな課題となっていることがわかります。
給与が安い
介護職はほかの業種に比べ給与が安く、そうした待遇面も人材不足の原因のひとつと考えられます。
令和3年度「介護労働者の就業実態と就業意識調査」によると、仕事に対する満足度の項目では、すべての介護職種において、賃金は満足度が最も低い結果となりました。労働条件等の悩み、不安、不満等の項目では、「仕事の割に賃金が安い」との回答が38.3%と2番目に多くなっています。
実際の年収について見てみると、令和2年度における介護労働者全体の平均年収は約366万円となっており、同年の日本人の平均年収である約443万円と比べ、低い傾向にあることがわかります。また、医療・福祉職の伸び率はマイナスであることから、待遇面はよいとはいえません。
離職率が⾼い?
介護職は一般に、離職率が高いと思われがちです。しかし令和3年度の離職率を見てみると、全職種の離職率は13.9%であるのに対し、介護職の離職率は14.3%と平均をわずかに上回る程度の結果でした。
さらに、業種別でいえば医療・福祉の離職率は、令和3年度より過去数年にわたって14~15%台を推移しており、飲食や生活関連サービス業などと比べて特別高いというほどではありません。
介護サービス別に見ても令和3年度は平均14%程度であり、離職率が高いという世間一般のイメージとは異なっていることがわかります。
実際のところ、介護職の離職率は減少傾向にあり、令和3年度には平成17年度以降、最低数値となりました。
令和3年度「介護労働者の就業実態と就業意識調査」を見ても、勤務先での就労継続について61.2%が「今の勤務先で働き続けたい」と回答しており、勤務意欲は向上していることがうかがえます。
他方、令和2年度「事業所における介護労働実態調査」では、訪問介護とサービス提供責任者の離職率が採用率を上回っているというデータも示されています。
⼈⼿不⾜の対策
介護業界の人手不足を解消するためには、介護人材数の底上げと業務改善が不可欠です。人手不足対策としては、次の3つが挙げられます。
外国⼈⼈材の活⽤
介護業界では、平成20年から外国人材の受け入れが始まりました。当初は人材不足を補う目的ではなく、経済活動の連携強化の観点から実施されていました。人手不足対応のために外国人人材の受け入れが始まったのは、平成31年度からです。
令和3年度「介護労働実態調査」によれば、外国人を受け入れている事業所は6.2%と、あまり進んでいないといえます。
これは、外国籍労働者と一緒に働くことについて、外国籍労働者がいない職場では「利用者との意思疎通において不安がある」が52.9%、「コミュニケーションがとりにくい」が47.6%と高い数値を示していることから、意思疎通の問題が背景にあることがわかります。
しかし、一緒に働いている職場では、「労働力の確保ができる」が54.3%、次いで「できる仕事に限りがある(介護記録、電話等)」が43.8%となりました。
この結果から、意思疎通やできる仕事の限度はあるものの、外国人人材の受け入れは人手不足対策として有効な手段のひとつと考えられるでしょう。
⼈材定着⽀援
人手不足を補うためには、今いる人材を減らさないことが大切です。国は介護事業者に対し、さまざまな人材定着支援を行っています。具体的には「キャリア形成促進助成金」や、非正規職員を対象とした「ジョブ・カード制度における雇用型訓練」などが該当します。また、独自の支援制度を用意している自治体もあります。
さらに厚生労働省では、在宅介護業向けの人材育成マニュアルを作成し、人材不足に悩む在宅介護業の人材定着支援を実施しています。こうした支援制度などを有効活用し、人材の確保・定着化を図りましょう。
ICT化/DX化による⽣産性向上
介護人材不足の対策として注目されているのが、介護業務のICT化・DX化です。特に、介護業務の中でも大きな時間を占める介護記録やシフト作成は、ICT化との相性がよく、大きな効果が見込めます。
介護現場では、すでにICT機器の導入が始まっています。令和3年度「事業所における介護労働実態調査」によれば、パソコンで利用者情報を共有している事業所は全体の52.8%となっています。
また、導入を検討しているICT機器については、「タブレットによる情報共有」に次いで、「記録から介護保険請求を一括に行うシステム」「給与計算・シフト管理・勤怠管理を一元化したシステム」が挙げられています。
実際、弊社勤務シフト自動作成サービスのShiftmation(シフトメーション)も介護・医療系の企業様の導入実績が多く、上記定量情報が実態に沿っている事が伺えます。
さらに、今後は介護ロボットやAI機能が搭載されたICT機器の導入など、介護のDX化が進んでいくことが予想されます。その結果、今の介護業務のプロセス自体が変化していき、さらなる生産性向上が見込まれ、人材不足解消に貢献していくことでしょう。
介護人材不足対策は人材確保とICT化DX化がカギ
定量的データから、介護人材不足の背景には少子高齢化や介護職の待遇面の低さが影響していることがわかりました。待遇面については国もさまざまな支援策を講じており、少しずつではあるものの改善していくことでしょう。
一方で離職率については、世間一般のイメージとは裏腹に減少傾向となっています。ただし、新規採用は難しく、良質な人材の確保が課題です。
介護人材不足に対応するためには、介護人材の母数を増やすための外国人人材の活用や、今ある人材を活かすための人材定着支援を続けていくことが大切です。同時に、業務のICT化・DX化を進め、限りある人材を最大限に活かしながら、生産性の向上に取り組んでいきましょう。
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